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法話
2022/12/20
12月の法話(今年の漢字)

 年末に清水寺で発表される「今年の漢字」は、「戦」でした。これはロシアとウクライナの戦争の「戦」を表しているのでしょう。今月の御堂さんの表紙にも「人類を滅ぼす正義感」と書かれていました。記事の内容から、ロシアのプーチン大統領のことを言っているのだろうと思います。
 最近の御堂さんでは、政治的な内容が多く見られるように感じます。それぞれに意見、考え方はあると思いますので、それについて、何も申すことはありませんが、一つ思うことは、「ただ有識者の方の意見を紹介するだけでは、メディアと何も変わらないのではないか。」ということです。
 私たちは、仏教徒です。ですから、御釈迦様はどう考えられたかという視点がなければならないと思います。
 御釈迦様ははっきりとこのように言っておられます。

「かれは、われを罵(ののし)った。かれは、われを害した。かれは、われにうち勝った。かれは、われから強奪した。」という思いをいだく人には、怨(うら)みはついにやむことがない。
「かれは、われを罵(ののし)った。かれは、われを害した。かれは、われにうち勝った。かれは、われから強奪した。」という思いをいだかない人には、ついに怨(うら)みがやむ。
実にこの世においては、怨みを報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みのやむことがない。怨みをすててこそやむ。これは永遠の真理である。(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫10頁)

 今の状況は「怨みのやまないことを繰り返している」のは申すまでもないと思います。どちらかが怨みを捨てない限り、戦争は終わりません。そしてメディアが戦争について急に報道を始めたので、「今までこんなことは考えられなかったですね。」と思われる方が多いようですが、私たちが知らないところで、戦争は続いていたことも事実です。
 例えば、コンゴ民主共和国(旧名ザイール)での内戦*では、600万人もの人々が命を落としています。しかし、メディアでは、ほとんど報道されていないために、私たちはその事実を知らないのです。内戦の背景には軍需産業の存在があります。皮肉なことに戦争によってビジネスが成り立っているのです。
 こうしたことを知ると、「なんて酷い世の中なのか」と感情が高ぶりますが、知らないからこそ、心穏やかに生きてこられたという見方も出来ます。今の戦争でも、メディアの情報によって、感情が高ぶることがあると思いますが、私たちは冷静になる必要があります。
 それでは、私たちはどう生きてゆけば良いのでしょうか。御釈迦様は、このように言われています。

「怨みをいだいている人々のあいだにあって怨むことなく、われらは大いに楽しく生きよう。怨みをいだいている人々のあいだにあって怨むことなく、われらは暮らしていこう。」(中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』岩波文庫37頁)

 一人一人が「私は怨むことなく、楽しく生きよう。」と心に決めることで、平和で穏やかでいられます。世の中がどうなっていくのか気になるかもしれませんが、報道自体が世界の全てを報じているわけではありません。「自分がどう生きていくか」が第一の問題です。そして、何より私たちには南無阿弥陀仏が満ち満ちて下さっています。仏恩に感謝し、一日一日が尊い日暮らしをさせて頂きましょう。称名。【副住職】

*第二次コンゴ戦争:1998年8月から2003年7月にかけて、コンゴ民主共和国においてツチとフツの民族対立や資源獲得競争が原因で行われた戦争。人によっては現在でも継続していると考える人もいる。(wikipediaより)