スズムシの音に　耳をかたむけ

蚊の飛ぶ音に　手が動く

かわいい虫と　そうでない虫

二つに分ける 自分勝手な私

　スズムシの声に秋を感じる季節となりました。一方で蚊の飛ぶ音を聞いて、うっとうしいと思うこともあるでしょう。
　私たちは、様々なものに対して、二つに分けて見る癖がついています。それは「分別ある大人」という表現からも分かるように、「分別ある」ことが優れている人として一般的には考えられているからです。しかし、仏教では、「無分別智（むふんべっち）」と言われるように、分別が無いことが智慧とされています。これは一体どういうことなのでしょうか。

　仏様の見方は世間的な価値観とはまるで違っています。仏教においては、全てがありのままで、あらゆるいのちはみな平等であると考えます。逆に私たちは自分の都合で、いのちを分けて見ていることが多いのではないでしょうか。
　以前、養老孟司さんがある本に、「いのちとは簡単に殺すことはできても、二度と作れないもの」と書いておられました。「二度とつくれないもの」だからこそ、畏敬の念を持つべきだと思います。まずはなるべく殺さないようにしようと思うことが、大切なことです。ですからたとえ手が動くとしても、パチンとたたくのではなく、せめて払いのけるようにしたいものですね。称名。【副住職】