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法話
2024/02/20
2月の法話(『なるようになる』)

 先月に引き続き、一冊の本を紹介したいと思います。『なるようになる』は、養老孟司さん人生初の自伝です。本書は、養老さんが如何にして人生を歩まれたかがよく分かる内容になっていますが、最終章ではご自身のお考えと共に、これからのことも述べておられます。
 養老さんは、現代に生きる私たちの便利な暮らしを「脳化社会」と言われています。「脳化社会」とは、人間の脳だけで作られた社会のことで、人間にとって都合の悪いことは排除された状態です。人間にとって都合が悪いことは、本当はみな「自然」そのものであるということです。「自然」には、私たちが害虫や雑草と呼んでいる生き物が生きています。一方、私たちが暮らしている「脳化社会」では、部屋は冷暖房、照明は人工、トイレは水洗と全てが管理され、「自然」は排除されています。
 養老さんは特に「脳化社会」の状態にある都会人に対して、「参勤交代」を薦めておられます。「参勤交代」とは、本来、江戸時代に日本各地の大名が江戸まで行列をなして将軍に謁見に向かうことですが、養老さんの薦める「参勤交代」とは、都会の人間は一年のうち一定期間、田舎で暮らそうというものです。田舎で暮らすと、不自由な暮らしになりますが、それによって、本当に必要なものが分かり、自足という言葉の意味が分かる。そして何より都会で人の顔色ばかり見ているのをやめ、田舎でのびのび体を動かせば脳はリラックスし、気分は変わり、自然に浸ることができるでしょうと述べておられます。
 養老さんにとって、生き方の″ものさしは„飼い猫の「まる」でした。猫は自由です。好きなものは好き、嫌なものは嫌。「まる」を見ていると、いつも自足している感じで、自分はなんでこんなにカリカリして、頭でっかちに理屈ばかり考えているんだと思うこともあったそうです。その「まる」は2020年に亡くなり、今でも「まる」をつい探してしまうそうです。
 この本を通して、私が感じたことは、如何に私たちは、便利な生活のために、「自然」から乖離してきたかということです。農業では、大量の農薬を使い、車一台が廃車になるまでに千万単位の虫たちが死ぬと書いておられたことは衝撃でありました。「自然」に対する接し方が今、私たち一人一人に問われているのではないでしょうか。称名。【副住職】
『なるようになる』 / 養老孟司 / 中央公論新社