法話
2020/10/01
10月の法話
だれにもなるな みんなそれぞれ それぞれだから 輝いている
赤い花は赤く 青い花は青く 私が私になる それがすばらしい
(真宗佛光寺派伝道掲示板より)
今月の言葉は2003年に大ヒットした『世界にひとつだけの花』の歌詞に通じます。wikipediaによると、槇原敬之さんは『仏説阿弥陀経』の「青色青光黄色黄光赤色赤光白色白光」の一節を参考にされたそうです。「青い花は青い光を、黄色い花は黄色い光を、赤い花は赤い光を、白い花は白い光をそれぞれ放っている」これはお浄土の様子を描いているのです。
『世界に一つだけの花』は大ヒットし、皆さんご存知でしたので、ご法事の法話の時もよく紹介しておりました。しかしながら、イチロー選手の言葉にはっとさせられたことがありました。それは、2008年シーズンに213安打で終えた試合後のことです。
「一番になりたかったですね。僕は、ナンバーワンになりたい人ですから。オンリーワンの方がいいなんて言ってる甘い奴が大嫌い。僕は。この世界にいきているものとしてはね。競争の世界ですから。」
当然のことながら、メジャーリーグは競争社会です。レギュラーを獲得出来なければ、マイナーリーグに落とされるか、解雇されることもあります。そんな中、40歳を超えてもなお現役メジャーリーガーであり続けたイチロー選手に多くの人が心を打たれたのではないでしょうか?私はその一人です。そのイチロー選手の言葉から改めて深く考え、反省しました。「私はこの世の現実を考えずにお浄土の世界のことをそのまま話していたな。」と。「もちろん、もともと特別なオンリーワンであることに違いないけれど、如来様がそうご覧になっておられることを忘れてはならないな。」と気付かせて頂きました。「みんなそれぞれ輝いている。今のあなたのそのままが尊いのですよ。」と如来様が南無阿弥陀仏となって届いてくださっているのです。一方で私たちが生きる世の中は競争社会でもあります。その中を勝ち組となって、生き残る人もあるでしょう。しかし多くの人は自信を失い、希望の見えない日々を送っていることもまた事実です。
それでは、「赤い花は赤く、青い花は青く」はお浄土の世界であり、私たち娑婆世界に生きるものにとっては絵空事なのでしょうか?もちろんそうではありません。その手掛かりは聖徳太子が定められた『憲法十七条』にあると私は思います。その第一条はあまりにも有名ですが、以下に現代語訳を示します。
「うちとけて相互になごみ合うことを大切にし、背き逆らうことがないように心がけなさい。人は自分の仲間を作りたがるもので、また物事の道理をわきまえた者も少ない。そのため、ある者は君主や父に従わず、また隣り近所の人ともめたりするものである。しかしながら、上の者も下の者も親しみを持って話し合うことができるなら、おのずと道理にかなった結論に至り、何事も成就する。」
この精神が私たち日本人の底流にあると思います。たとえ切磋琢磨する競争社会の中にあっても、その人の地位にとらわれず、お互いが親しみを持って話し合うことができれば、それぞれが輝くことのできるすばらしい世界が開かれるのではないでしょうか?如来様に願われた尊い命を只今、生きていることに目覚め、お互いを尊重し合えることがすなわち私が私として歩んでいけることにつながるはずです。称名。【副住職】