法話
2025/08/20
8月の法話(戦後80年)
今年は、戦後80年にあたります。メディアでも、戦争に関するドラマや特集が報道されていました。その中で、「国策落語」というものが紹介されていました。「国策落語」とは、戦争遂行という国策に沿って、当時の人気落語家さんによって作られた落語のことです。
例えば、林家正蔵さんの「出征祝」という国策落語があるそうです。息子が兵隊に召集された父親が、国に貢献できることを祝って、うたげを開くという内容で、最後に「一升瓶を2本買った」というせりふを「日本勝った」にかけた落ちで終わります。
今は、お孫さんの林家三平さんによって、定期的に演じられています。三平さんは次のように言われました。
「聞いていて気持ちのいい話ではないが、これでしか笑うことができなかった戦時中の状況を感じてほしい」
(NHK NEWSWEBより)
当時は言論統制が当たり前で、今では考えられない状況だったことでしょう。従わなければ、「非国民」のレッテルを貼られて、酷い目にあった人々もおられたと聞きます。しかし多くの方が従うことを余儀なくされ、亡くなられました。今も、戦争の話を聞きますが、皆さん、「戦争はこの世の地獄です。」と言われています。子供の頃、誰もが、地獄とは、悪いことをしたら、行って懲らしめられる世界と聞かされますが、私たちが今、生きている世界にも地獄が存在していることを身をもって経験された方がおられるということです。
ここからが仏教のお話ですが、地獄とは、欲界(六道)の一番下の世界です。下の3つの世界(地獄・餓鬼・畜生)を三悪道と申します。悪と呼ばれるので、悪いことをしたら行く世界と教えられるわけです。しかし、御釈迦様は、悪いというより、苦しみの世界と考えられました。苦しみの世界から脱するにはどうしたら良いかを人々に説かれたのです。「心が主体であることが、真理であるので、自己こそが自分の主ですよ」これが一番、御釈迦様が伝えたかったことです。つまり、非国民のレッテルを貼られようが、戦争には行かないと一人一人が決断すれば、戦争を経験せずにすむということです。人間にはどうしても畏れがあるので、難しいと思われるでしょう。しかし、無畏施(むいせ)と呼ばれるように、畏れないことが布施になるのです。一人一人が従わない(抵抗するのでなく)姿勢を貫くことで、数が多くなり、コントロールできなくなります。何も考えずに、上から言われたことを鵜呑みにしていては、思考をコントロールされてしまいます。御釈迦様の一番伝えたかったお言葉に立ち返り、お念仏と共に今、平和であることに感謝して日々を過ごしたいものですね。称名。【副住職】